シロかっこいい

子供の頃、公園の近くにシェパードを飼っている家がありました。公園に行くにはその横を通らないといけないのですが、その犬はジャンプしながらすごく吠えかかってくるので、とても怖かった記憶があります。いつも息を詰めて急いで走り抜けていました。

今でもよく知らない犬に合うとはじめは少し警戒してしまうのですが、時折り初対面でも「この犬は信頼できる」と思える犬に出会うことがあります。理由はよくわからないのですが、そういう犬は顔を見ただけで「ああ大丈夫だな」と思えるし、実際みな利口で気立てのいい犬たちでした。

以前、私が住んでいた社宅によく遊びに来ていたシロもそんな犬でした。シロは大きさは中くらいの白っぽい犬で、穏やかで大人しい性質だったので社宅の人たちにも受け入れられていました。私の目からみると、シロは幼児が描く犬の絵みたいな、ごくふつうの雑種犬でしたが、うちの子どもは「シロかっこいい」と言っていました。私もシロは好きだったけれど「え~、かっこいいかなぁ?」と思っていました。

しかし、そのうちに私にもシロがかっこいいと思える日がきました。ある頃からシロの弟分のような犬が現れて一緒に行動するようになったのですが、新参者の方はシロにくらべるとちょっと落ち着きのない感じの犬でした。よく2匹でテニスコート脇の芝生の上でくつろいでいましたが、ある時シロがその犬に向かって低い声でうなっているのをみかけました。犬の言葉はわからないけれど、私には「ここに住むにはここの掟があるんだぞ。守らないとここにはいられないからな」と言っているように思えたのです。それ以来、私の目にもシロは渋くてカッコイイ犬に映るようになりました。

ある日の昼下り、私が買い物から帰ってきてテニスコートの横を通りかかると、シロが妙なかっこうをしていました。あおむけで4本の足を全部ピンと上に伸ばしていて、ちょうどコタツをひっくり返したような形になっていたのです。私はてっきり「シロが死んじゃった!」と思って動転しました。どうしよう、どうしよう。ところが、シロはそのうちにむくむくと動き出し、何事もなかったようにいつものシロに戻りました。とくに具合が悪そうな様子でもありません。さっきのは何だったのかしら。ほっとしたら、なんだか可笑しくなってきました。シロは何をしていたのでしょうね。

何年かするうちにシロは社宅に姿を見せなくなり、今ではその社宅もなくなって住宅地に様変わりしてしまいました。私たちも社宅を出て他の土地で暮らすようになりましたが、今でもときどきシロのことを思い出します。しっかり者だけどのんびりしていてちょっと間が抜けて愛嬌のあるシロ。シロは懐かしくて愛すべき仲間でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>